スポーツコミュニケーションでは、常にチームや選手の中にある信頼関係がパフォーマンスに影響するという話をしていますが、今回のオリンピックで特にそれが感じられたのが男子柔道でした。
井上康生監督と選手との信頼関係。
9年前、男子柔道が金メダルゼロに終わった2012年のロンドン大会後、井上監督が男子代表監督として就任。
世界一の練習量をこなしたのに勝てなかったのであれば、今の時代に合った技術や練習方法を取り入れる必要があると、主に2つの改革を行ったそうです。
1つは科学的根拠に基づいたトレーニング。
これまで客観的なデータが一つもなかったことから、今まで感覚に頼ってきたものを全て数値化するといった徹底的なデーター分析を行っていったこと。
そしてもう一つが選手との関係性の強化だったそうです。
監督が泣き、選手も泣ける関係性。テレビの画面上からも、とてもよい関係性であることが伝わってきました。
具体的な関係強化の一つに、大会後は必ず監督と選手がマンツーマンで話をする時間を設けたという話があります。
ある選手がテレビの取材で、「井上監督から最初に『どうだった?』と聞かれて、僕の意見を聞いてくれるんだ」と、驚いたことを語っていました。
これまで自分の意見を監督から聞かれたことがなかったようで、こういった選手と対等な関係を井上監督が築き上げたことが伺えます。
その選手は今回代表から漏れてしまったそうですが、記者会見で代表から外れた選手のことを想いながら泣いていた監督を見て、「代表に選べなかった選手のために泣ける監督。そんな監督についていってよかったと改めて思った」と話していたのがとても印象的でした。
東京オリンピックでの柔道界のメダルラッシュ。
これは間違いなく、指導者と選手との信頼関係の強化が大きな要因になっているのではないでしょうか。
他の競技でもこのような関係性を築いている事例、沢山知りたいです。